【磐城壽(いわきことぶき) アカガネ 熟成生酛純米】
落ち着くと バランス取れた 旨苦酸
はじめましてのお酒、山形・鈴木酒造店さんの磐城壽です。前から飲んでみたかったお酒。
気がついた方、そう、山形なんです。
鈴木酒造店さんは、元々福島県浪江町の海沿いにあったんです。でも、2011年の東日本大震災の際、津波で全て流されてしまいました。その後、原発事故もあり避難していた山形県長井市で、縁あって酒造りを再開。そして2020年、ついに浪江に戻ってこられたんです。
でも、このお酒はR1BY(令和1醸造年度・2019/7/1~2020/6/30)。だから、山形で最後に仕込まれたお酒なんですね。熟成されて、製造年月は浪江に戻った後の2022年3月。でも製造者にはしっかり、鈴木酒造店長井蔵・山形県長井市と書いてあります。このラベルにもいろんな想いがこもってるんだろうなあ。
このお酒も、昨日の奈良萬さんと同じく、福島出張の帰りに福島空港で買ってきました。雑誌dancyu 2017年3月号「愛のある日本酒がほしい。」魚に合う日本酒特集で124本の中から堂々第1位に選ばれたお酒だそうです。海から遠く離れた長井の地で造られたお酒が、魚に合う日本酒1位。鈴木酒造店さんのこだわりが感じられますね。
実はこちらの出張先、9年前に担当になってから20回以上は伺ってます。でもこの4月の異動で、ついに担当を外れることになりました。今回の出張は引継ぎが目的で、伺うのもおそらくこれが最後になります。こちらの取引先さんでは、いろんなことがありました。だから僕にとっても感慨深い1本なんです。
では、飲んでいきましょう。
ひとまず常温で。
香りはしっかりお米の旨甘。
口に含むと、力強い旨味を中心に、奥に苦味酸味甘味。そこから味わいがドドドっと広がります。特に旨味苦味はかなり強力。余韻もビリビリ残ります。
これは猛々しいレトロ。正直、ちょっと苦手です。
でもこれ、燗にしたら楽しいやつじゃないかな?
やってみましょう。
お酒を、月桂冠 THE SHOTの空き瓶に移し、お湯を沸かして、温度計を見ながら湯煎していきます。酒器はお湯で温めた平杯。まずは50℃の熱燗でいただきます。
おおっ!美味しい!
苦味は大人しくなって、旨味も優しくなって、酸味と甘味がぱあぁっと明るく開きます。
もっと温めてもいいんじゃないかな? いろいろ試してみましょう。
その結果、いちばん美味しかったのは、60℃のとびきり燗。華やかで旨味もたっぷりです。それ以上温度を上げると、アルコール感が尖ってきます。逆にぬるめでは苦味が暴れる。表情の変化が楽しいですね。
というのは、開栓初日の話。こちらも日を置けば落ち着いてきそうだから、常温放置してみました。そしたらやっぱり穏やかになって、どんどん美味しくなる。ちびちび飲みながら、17日かけて楽しみました。
17日目になると、だいぶまろやかになってます。
香りは良い意味で米臭い。旨味がたっぷりありそうなレトロ純米の香り。乳酸と米甘もほんのりほわん。
口当たりは、とろり。乳酸を中心に、しっかりしつつ優しくなった旨苦甘アルがぽわん。それがじわんと広がって、旨苦余韻を残して消えていきます。じわうんまい! バランス良い旨苦酸なレトロ酒ですね。
美味しかった~。たっぷり楽しめました。
スペックは、
造り:純米 生酛 熟成
原料米:岡山県産雄町
精米歩合:65%
アルコール度数:16% ・・・ 高め
酵母:自家酵母A-6株
ジブリで例えると「紅の豚」の、ガソリンを買いに立ち寄った先で、昼間からワイン傾けてる爺さんたち。「”さらばアドリア海の自由と放埒の日々よ”ってわけだ」「それ、バイロンかい?」「いや、俺だよ。またな」のシーンです。この爺さんたち、世界恐慌で大変そうな中でも、実に楽しそう。長く人生を楽しんでる感じがします。
満足度:★★★★
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