こるね酒

原則毎日AM11時更新+α。日本酒好きのホルン吹きです。飲んだお酒を、ジブリ映画のキャラやシーンに例えながら紹介します。異論反論大歓迎。日本酒に詳しくない方でも、ジブリ作品に詳しくない方でも楽しんでいただけるように書いていきます。

千代の松 神仏習合 > ジコ坊(もののけ姫)[ジブリ酒]

千代の松(ちよのまつ) 奈良の神仏習合の酒】

八段で 95パーの 複雑味

千代の松

千代の松

イタリア」「かぎろひ」に続いて、蔵元さんにお話しを聞きながら飲む千代の松さん。最初のイタリアも大概だったけど、この子は造りからして変態です。
精米歩合95%の八段仕込み。

精米歩合95%って、ほぼ玄米ですよね。僕らが普段食べているお米よりも玄米に近いです。コイン精米機で精米しているというLIBROMさんですら精米歩合は92%。

八段仕込みというのも異常。通常の日本酒は、酒母に対して3回に分けてお米と水を足します。これが三段仕込み。四段仕込みというのは時々ありますが、五段以上はほとんどありません。だって、めちゃくちゃ手間ですもん。ちなみに大手メーカー・大関さんには十段仕込みというのもありますが、こちらは700mlで税込5500円の高級酒。今回のお酒は税込1600円というごく普通の値段です。なんでこんなことができるんだろ?

この、どう考えても変態な造り方にはちゃんと理由があります。このお酒は、奈良興福寺に伝わる「多聞院日記」に載っているお酒の造り方を参考にしているんです。

多聞院日記とは、1478~1618年の140年にわたって書かれた日記。著者は興福寺多聞院主の僧・英俊をはじめとする三代。そりゃ140年で1人のわけはありませんよね。この時代って戦国時代のど真ん中。そんな激動の時代を生きる人々の生活が描かれています。めちゃくちゃ面白そう。そしてその中に、お酒の造り方も載ってるんです。当時は僧房酒と言い、知識の中心地であるお寺でお酒が造られていました。多聞院日記には、段仕込み・諸白造り・火入れなど、現代に通じる造り方の記述があるそう。

今回のお酒でお米を磨かないのは、当時の造り方に倣ったからですね。
でも、日記に記載のあったのは六段や七段仕込み。それをさらに八段にしたのは芳村社長の考えです。また、当時の奈良の酒造りと言えば菩提酛を思い出しますが、このお酒は普通の速醸だそうです。
ちなみに以前、「豊臣秀吉愛飲の復古酒 僧房酒」というのを飲みましたが、あれはめちゃくちゃ甘かった! むしろ甘すぎた。

このお酒の名前「神仏習合の酒」とは、神社とお寺の合作ということ。お寺の方は上記の通り興福寺ですね。神社は、日本酒発祥の地と言われる奈良県桜井市・大神(おおみわ)神社の境内に咲くササユリからとれた「山乃かみ酵母」を使用しているからです。

とまあ、いろいろなこだわりの詰まったお酒。それではいよいよ味わっていきましょう。

色は、黄色。もっと濃い褐色ならよく見ますが、こんなに黄色いお酒は初めてですね。

香りは複雑熟甘と、穀物乳酸ほわほわん。なるほどこれは低精白。かなり複雑だけど嫌味がないのが面白いですね。

口に含むと乳酸と、甘旨苦が一気にどどん。
味わいもやっぱりかなり複雑です。穀物旨も糠苦も、熟成苦酸もクセもたっぷりと。でも、意味がわからないんだけど、バランスが崩れてない。ちゃんと美味しいんです。どの味わいも突出はせずに、美味しいエリアからはみ出してしない。凄い!

単体でも美味しいけど、料理にも合わせやすそうです。というか、後味がたっぷりあるから、最後には何かアテが欲しいところ。
アテに合わせるなら、中華かイタリアンか本格インドカレー。奈良漬けもいけそう。芳村社長によると、和食には基本的に合わないけど、肉じゃがならいけるとのこと。意外に幅広い!

とは言えまあ、クセもあるから、あんまりたくさん飲むお酒じゃないですね。そして、万人にお勧めできるとまでは言いません。でも、熟成酒が大丈夫な人なら飲んでみると面白いですよ。

なおこのお酒、はじめて造った時は、酸っぱくて苦くて糠くさくて吹き出したんだそう。そこで、甘味と酸味とアミノ酸のバランスを取るために試行錯誤。麹歩合は驚きの4割(通常は約2割)だそうです。八段仕込みなのに!?と思ったら、掛米と一緒に麴も加えてるんだとか。さらに、2年の熟成もかけている。

原料米は奈良の酒米・露葉風、酵母も奈良の山乃かみ酵母。だけど、八段まできたら、もうどんなお米でもどんな酵母でも同じだそうです。
こんな深い内容が聞けたのは社長とお話しできたからこそ。めちゃくちゃ楽しかったです。芳村社長、ありがとうございました。

ジブリで例えると「もののけ姫」のジコ坊。クセも裏もたっぷりあるけど、愛嬌もあってどこか憎めない謎の人物。身体能力がめちゃくちゃ高いです。

ちなみにジコ坊は一応お坊さんで、物語の舞台は多聞院日記の描かれた時代とも一致します。でも残念ながら、僕はジコ坊は奈良興福寺ではなく比叡山延暦寺に属するという説を立てています。詳しくは、「師匠連とは何者か? 師匠連=延暦寺説の検討」という記事をご覧ください。興福寺延暦寺は、「南都北嶺」と並び称されるライバル関係で、両方とも強力な僧兵を抱えて朝廷に強訴(ごうそ)していました。なるほど、このお酒はそんな力強さもありました。

好き度:★★★★

千代の松

千代の松

【DATA】
蔵元:芳村酒造株式会社(奈良県宇陀市)
造り:純米 無濾過原酒 八段仕込み 2年熟成
原料米:奈良県産 露葉風
精米歩合:95%
アルコール度数:17% ・・・ 高い
日本酒度:-19 ・・・ 大甘口
酸度:2.7 ・・・ めっちゃ高い
アミノ酸度:3.0 ・・・ めっちゃ高い
酵母:山乃かみ酵母
製造年月:2023年8月

 

関連記事:

←投票リンク踏んでいただけると、とても嬉しいです。

ブログランキング・にほんブログ村へ